教育史学会第67回大会

シンポジウム

アイヌ教育史研究の現在 ――研究の有効性を不断に問う

基調報告 小川 正人(北海道博物館)
 アイヌ教育史研究の有効性を問う
報告 谷本 晃久(北海道大学)
 「蝦夷通詞」と学知と ――近世・近代移行期から「アイヌ教育史」を考える
新井 かおり(北海道大学)
 ある一家のアイヌ近現代史の体験に見る「教育」の諸相
北原 モコットゥナㇱ(北海道大学)
 大学におけるダイバーシティ推進とアイヌ教育史
指定討論 冨山 一郎(同志社大学)
藤野 裕子(早稲田大学)
司会 古川 宣子(大東文化大学)
北村 嘉恵(北海道大学)

日時

2023年9月24日(日)14:10~17:40 ※13:50開場

開催形態

オンライン・対面同時開催 ※期間中に参加登録をお願いいたします。

対面会場

北海道大学札幌キャンパス 文系共同講義棟2階・8番教室

趣旨

 アイヌ教育史研究は、アイヌ民族の、あるいはアイヌ民族をとりまいてきた社会の、歴史と現在に対して、どのような有効性がある/あり得るのか。現在のこの社会のなかで、アイヌ教育史研究が有効性を持ち得るために、どのような視点や課題を意識するべきか。この問いは、アイヌ教育史研究(者)が、現実社会のなかで何を課題として受け止め、追求すべき問題とそれに向かう回路を見定めてきたのか、そして、いかなる歴史叙述や歴史展示を社会に投げ返してきたのか、それらを不断に省察し、浮かび上がる課題や視座を確かめることを求めるものだ。そしてこの問いは、〈アイヌ教育史〉だけではなく、ひろく教育史研究(者)、社会科学(者)に共通するはずだ。──本シンポジウムでは、このような問いを起点として、研究者自らが、自身の設定した対象や課題、そこで意識的・無意識的に前提としてきたことがらを改めて吟味する場を設定し、そこから教育史研究の有効性を考えるという課題に取り組んでみたい。

 したがって本シンポジウムを企画した意図は、教育史学に固有の存在理由や社会的な有用性を確認することではなく、○○研究の意義を問うプロセスそのものを個別具体的な蓄積=状況に即して考えることにある。

 アイヌ教育史研究に即してこの課題に取り組もうとするのは、本年度の大会開催校の所在地が北海道であるという現実と深く関わる。アイヌ民族・先住民族をとりまく近年の社会的・世界的情勢とも無縁ではありえないだろう。本シンポジウムの場を、いったんこのように押さえたうえで、さらに、「北海道だからアイヌの問題を取り上げる」という発想や、「マイノリティへの着目/からの視点」といった問題認識のありようもまた、本シンポジウムの討議を通じて省察の対象になるだろう。したがって、「周縁とされる地点から主流や全体を照射する」といったことは、本企画のねらいではないことをあらかじめ確認しておきたい。また、シンポジウムのタイトルに掲げた「アイヌ教育史研究の現在」とは、研究史や近年の研究状況のレビューを意図したものではなく(もちろん、それらをふまえることにはなるが)、研究そのものの積み重ねと立ち位置の省察が本シンポジウムの出発点であることを含意している。

 以上のような企図のもと、まず基調報告として、小川正人会員に自らの研究や教育史学会の取り組みをふまえた問題提起をしていただく。そのうえで、谷本晃久さん、新井かおりさん、北原モコットゥナㇱさんの3名に登壇いただき、それぞれの立場からアイヌ教育史研究の対象や課題の問い直し、アイヌ史の多様なすがたなどを考える報告をお願いする。それらをふまえて研究の有効性を考えるコメントを冨山一郎さんおよび藤野裕子さんに行っていただき、さらに参加される方々との討論につなげていきたい。

主な報告関連文献

小川正人

学校ができ、そこに子どもが通う ――近代アイヌ教育政策史における学校の問題」(『歴史学研究』833、2007年10月)

「近代アイヌ史」(黒川みどり編『部落史研究からの発信 第2巻 近代編』解放出版社、2009年)

谷本晃久

蝦夷通詞・上原熊次郎の江戸 ――御書物同心への異動と天文方出役をめぐって」(『北海道大学文学研究科紀要』151、2017年2月)

『近世蝦夷地在地社会の研究』(山川出版社、2020年)

新井かおり

「アイヌ近現代史の諸断層 ――貝沢正の未発表原稿に見る幼年期の記憶を中心に」(『語りの地平 ライフストーリー研究』2、2017年)

「アイヌ側から見たアイヌ史」はいかに不/可能か ――貝沢正資料からみる各アイヌ史の編纂について」(『アイヌ・先住民研究』1、2021年3月)

北原モコットゥナㇱ

つないでほどく アイヌ/和人』(北海道大学アイヌ・先住民研究センター、2022年)

歴史的トラウマ概念のアイヌ研究への導入を探る」(『アイヌ・先住民研究』1、2021年3月)

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